事業承継の補助金は、なぜ相談を断られるのか

「事業承継の補助金を使いたいと相談したら、断られてしまった」

そういう話を、複数の方からうかがったことがあります。士業に相談したのに、どこも引き受けてくれなかった、と。

断った側が不親切だったわけではありません。制度の作りに理由があります。この記事では、その理由を公募要領に沿って整理します。あわせて、どういう承継なら対象になるのかも書きます。

なぜ、断られることが多いのか

理由は4つあると考えています。

① 名前がM&Aを連想させる

この制度は「事業承継・M&A補助金」という名前です。そのため、専門家でも「M&Aの案件だ」と受け取り、身構えてしまいます。

ですが実際には、性格の異なる複数の枠に分かれています。

専門家活用枠 M&Aの仲介・FA業務が前提。登録された仲介業者との連携が必要
事業承継促進枠 承継を機に行う新しい取組への設備投資。対象経費は設備費・外注費・委託費など

事業承継促進枠は、M&Aとは関係ありません。親族や従業員への承継が対象で、構造としては通常の設備投資の補助金と変わりません。ここが知られていないため、話が始まる前に終わってしまいます。

② 株式の移転が絡む

この制度は、経営権と所有権(株式・持分)の両方が承継者へ移ることを求めます。つまり株式の移転が前提で、そうなると税務や登記の話が同時に発生します。

株価の評価は税理士、株式の移転登記は司法書士の領域です。補助金の相談として持ち込まれても、案件全体を見れば複数の専門家が必要になります。ひとりで完結しないため、引き受けにくい。

③ 認定経営革新等支援機関の確認書が必要

公募要領には、こう定められています。

認定経営革新等支援機関より、事業承継の蓋然性につき確認を受けた計画書に限る

事業承継・M&A補助金(15次公募)事業承継促進枠 公募要領

申請者側だけでは書類が揃いません。認定を受けた機関(商工会議所、金融機関、認定を受けた税理士など)の確認が必要です。この一点で対応できなくなる事務所は少なくありません。

④ 5年後まで責任が続く

承継は、公募申請期日から5年以内に完了する必要があります。15次公募であれば2031年7月23日までです。

期限までに完了しなかった場合、補助金の返還を求められます。設備を入れて報告して終わり、という補助金とは重さが違います。

では、どういう承継なら対象になるのか

断られる話ばかりでも仕方がないので、要件を整理します。

対象になるのは、同一の法人(または事業)の中で代表者が交代する承継です。承継先は親族または従業員に限られます。

後継者に必要な経験

法人の場合 ・会社法上の役員として3年以上の経験
・継続して3年以上雇用され業務に従事した経験
・役員と従業員を通算して3年以上
・被承継者の親族で、代表経験がない方
個人事業主の場合 ・継続して3年以上雇用され業務に従事した経験
・被承継者の親族で、承継対象事業の代表経験がない方

ここでいう親族とは、民法第725条に定める六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族です。

会社側の要件

  • 法人は、申請時点で3期分の決算と申告が完了していること
  • 個人事業は、開業届と青色申告承認申請書の提出日から5年が経過していること
  • 申請時点で後継者が決まっていること
  • 経営権と所有権の両方が、承継者へ譲渡されること

ここが分かれ目です

公募要領には、対象にならない例としてこう書かれています。

承継者と被承継者による実質的な事業承継が行われていない(例:代表者の交代のみの事業承継、承継予定者の要件を満たさない者への事業承継)

同 公募要領

代表者の名義を替えるだけでは通りません。株式や持分の移転を伴う、実質的な承継であることが必要です。

補助額と対象経費

補助率 小規模事業者等 2/3以内/それ以外 1/2以内
補助上限額 800万円
賃上げ要件を満たす場合は1,000万円。ただし800万円を超える部分の補助率は1/2
補助下限額 100万円
廃業費の併用 +300万円以内

対象経費は、設備費(国内の店舗・事務所等の工事、機械器具等の調達)、産業財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費です。

使えると誤解されやすい費用

被承継者に支払う譲受費用(土地、資産の購入費用等)は対象になりません。原則として、被承継者に対して支払う費用は補助対象外です。

「先代から会社の資産を買い取る費用に使いたい」というご相談をいただくことがありますが、これは通りません。承継そのものの費用ではなく、承継を機に始める新しい取組への投資を支援する制度だとお考えください。

承継前でも申請できます

誤解されやすい点をもうひとつ。

申請の時点で承継が完了している必要はありません。要件は「申請時点で後継者が決まっていること」であり、承継自体は申請期日から5年以内に完了すればよい設計です。

つまり、「そろそろ息子に継がせようと思っている」という段階から検討できます。むしろ、承継を機に何を新しく始めるかを考える時間があるほうが、計画は組み立てやすくなります。


当事務所の対応について

正直にお伝えします。

当事務所では、現時点でこの補助金の申請支援はお引き受けしていません。先に述べたとおり、認定経営革新等支援機関による確認書が必要で、当事務所はその認定を受けていないためです。

ただし、要件に当てはまるかどうかの確認や、進め方のご説明は、初回相談(無料)の範囲で承ります。「うちの承継はそもそも対象になるのか」「後継者の要件を満たしているか」という段階のご相談で結構です。

また、承継を機に行う設備投資であれば、創意工夫チャレンジ促進補助金(東京都)や小規模事業者持続化補助金など、別の制度が使える場合があります。そちらであればお引き受けできますので、あわせてお調べします。

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出典

  • 事業承継・M&A補助金(15次公募)事業承継促進枠 公募要領 Ver.1.0(2026年5月・事業承継・M&A補助金事務局)