AIがもたらす人類「第3の拡張期」、変わる士業
「AIで士業の仕事はなくなるのか」
仲間内の会話で、この話題が増えました。
しばらくは受け流していましたが、最近私はこう答えるようにしてます。「なくなる部分と、むしろ増える部分があります」と。
ただ、そう答えるだけでは何も説明したことになりません。なぜそう考えるのかを、少し遠回りしてお話しさせてください。人類がこれまで何をしてきたか、という話です。
人類が長い時間をかけてやってきたのは、ずっと能力の「拡張」だった
私は、人類の技術史を「人間がどの能力を拡張してきたか」という見方で整理しました。学問的な定説ではなく、私なりの整理です。ですが、こう並べてみると腑に落ちるところがあります。
第1の拡張 ── 力を広げた
最初に広げたのは、力でした。
人類は悠久の歴史上、自分の筋肉と家畜の力だけで生きてきました。運べる荷物の重さも、耕せる畑の広さも、体力で決まっていました。そこに蒸気機関が現れ、やがて電気が来ます。
このとき、荷役や織物の仕事は確かに減りました。けれど人が働かなくなったかというと、そんなことはありません。工場が生まれ、鉄道が敷かれ、それまで存在しなかった職業が大量に生まれました。
第2の拡張 ── 距離を縮めた
次に広げたのは、移動できる範囲です。
船が大型化し、自動車が普及し、飛行機が飛びました。地面の上を歩くしかなかった人類が、空と海を自由に使えるようになった。「遠い」という制約を克服したわけです。
私自身、総合商社時代にイランやメキシコに駐在し、仕事と旅で80か国ほどを回りました。当たり前のようにやっていましたが、200年前なら一生かけても不可能な移動です。
ここでも、飛脚や馬車の仕事は消えました。代わりに、物流、観光、貿易という巨大な産業が立ち上がりました。
第3の拡張 ── 頭と感覚を広げた(いま、ここ)
そして現在進行中なのが、頭脳と五感の拡張です。
センサーやカメラが、人の目では見えないものを捉えます。人工衛星が、地球の裏側の様子を運んできます。そしてAIが、人間の脳では到底処理しきれない量の情報からパターンを見つけ出します。
力でも距離でもなく、「認識する」「考える」という部分そのものを外に広げている。これが、いま起きていることです。
過去2回と同じことが起きるなら、答えは見えています。なくなる仕事はあります。それは間違いありません。そして同時に、これまで存在しなかった仕事が生まれます。
では、行政書士の仕事はどうなるのか
ここからが本題です。
正直、変わります
私自身、日常業務でAIを使っています。
補助金の公募要領は、1つの制度で100ページを超えます。それが8制度、9制度とあり、しかも年に1〜2回改訂されます。以前なら、該当箇所を探すだけで半日仕事でした。いまは手元の仕組みに公募要領を読み込ませてあり、「この経費は対象になるか」と聞けば、根拠となる箇所を数秒で引いてきます。
当事務所が補助金の無料診断をお受けできているのも、これがあるからです。ご相談を受けてから、いま募集中の制度を洗い出して締切と要件を整理するまで、以前とは比べものにならない速さでできるようになりました。
つまり、調べる・探す・整理するという部分は、確実に軽くなっています。ここを「これまでどおり時間をかけてやります」と言い張るのは、もう誠実ではないと思っています。
それでも残るもの
一方で、動かないものもあります。
ひとつは、聞き出して整理することです。
補助金の申請書に何を書くかは、社長ご自身の頭の中にあります。ところが、それがきれいに整理されていることは、まずありません。世間話の途中でぽろっと出てきた一言が、実は事業の一番の強みだった、ということが本当によくあります。それを引き出して形にするのは、向かい合って話を聞く仕事です。
もうひとつは、責任を引き受けることです。
行政に提出する書類には、必ず「誰が作ったのか」がついて回ります。間違いがあれば、その責任を負う人が要る。AIは責任を負えません。
この点は、法律のほうでもはっきりしました。2026年1月に施行された改正行政書士法で、報酬を得て官公署への提出書類を作成することは、名目を問わず行政書士の業務であることが明確化されています。技術が進めば進むほど、「誰が責任をもって作ったのか」がかえって重くなる、というのが私の実感です。
この改正については、別の記事で詳しく書いています。
拡張は、人を追い出してきたわけではない
力を拡張したとき、人類は力仕事から解放され人力の限界を超えました。距離を拡張したとき、人類は移動の苦労と限界から解放されました。
いずれのときも、仕事は消えたのではなく、人類の役割が一段上に移ったのだと思います。運ぶ人から、運ぶ仕組みを設計する人へ。
頭脳の拡張でも、同じことが起きるはずです。調べる仕事は機械に渡し、人は「何を選ぶか」「どう伝えるか」「誰が引き受けるか」に集中する。
私はこの変化を、人類史上第3の革命だと捉えています。書類を作るだけで終わっていた時間を、社長のお話をうかがう時間に振り向けられるようになった、と感じています。
使える道具は使う。そのうえで、人にしかできないところに時間を使う。当事務所が料金を抑えられているのも、この考え方の結果です。
補助金について「そもそも自社に使えるものがあるのか」という段階のご相談も、無料でお受けしています。事業所の所在地・業種・従業員数・やりたいことをお書き添えいただければ、いま募集中の制度の中から候補をお返しします。
